2011年10月23日日曜日

第4回抗がん剤等による健康被害の救済に関する検討会

(レポート:片木美穂)

10月21日航空会館で開催された第4回抗がん剤等による健康被害の救済に関する検討会に天野・眞島が参考人として参加しました。片木・桜井・松本が傍聴しました。

この日は関係者へのヒアリングということで、臨床腫瘍学会、乳腺腫瘍の医師、患者会2団体が呼ばれており、それぞれが15分のプレゼンテーションをし、質疑応答に答える形となりました。

いずれの参考人も
・副作用被害救済制度に関して医療の委縮などが起きる懸念
・本当に副作用かどうか証明するのが難しいという懸念
・がん治療は手術や放射線治療なども行うことがありそれらにも死亡するリスクがあること
・ドラッグ・ラグなどの医療の諸問題が悪化するのではという懸念
などなど多くの課題があり、極めて抗がん剤の副作用被害救済制度は難しいのではないかというまとめになっているスライドでした。

驚いたのは委員の質問でした。
傍聴席で思わず腰を上げて誰が質問しているのか座席表と見比べ何度も確認してしまうほど…。
前述の「医薬品等制度改正検討部会」や「がん対策推進協議会」に比べて傍聴者が少なく、マスメディアの数も圧倒的に少なかったのですが、こういう会議こそ傍聴しておかないと、実は当事者が知らない間にとんでもない制度ができてしまうのではないかと危機感を感じる内容でした。
(本当に気になる方は是非とも議事録が出たら見てほしいと思ってます)

特に気になったのは、制度で救済される人の「線引き」について口にする委員が居たことでした。
もちろん、検討する会議なのでそういう意見が出ることはわかるのですが、
例えば化学療法を術前に受けるのか、受けないのかで線を引けば、手術のない血液がんや、そもそも発見時に進行がんであることの多い卵巣がんや膵臓がんなどはどうなるのか…たまたま手術室が空いてなくて術前化学療法をやると決断された患者さんと、同じ条件で手術を先にした患者さんとの違いはという話になってきます。
また、同じ化学療法なのに初発と再発とで本当に差をつけていいのか、じゃ初回化学療法でマーカーが下がりきらずに再燃したらどうなるんだ?
骨髄移植のために大量化学療法をする患者さんは?多くが適応外で治療を受けている小児や、減量をして治療を受けている高齢者や合併症がある患者さんは?
昨日の各参考人のヒアリングを聞いて、その線引きが無理であろうこと、線引きをすればむしろその線引きを巡って訴訟が多発するのではないかと思いました。

また、委員の中には、「副作用被害救済制度」ができれば訴訟が減ると頭から信じて疑わない委員がいるのではないかと感じました。
それに関しては医療者委員も指摘していましたが免責が無い日本でそれはむしろ逆の方向に行くのではないかと思ってます。

がんは治療をしなければ、多くの場合はやがて進行して命が失われます。
また再発した場合は多くの癌が、化学療法を繰り返し、うまくがんとうまく付き合って生きていくことになります。
薬には副作用はあります。
私たちは、医師からリスクとベネフィットの説明を聞き、治療を選択する権利もあれば、治療をしない権利もあります。
末梢血幹細胞移植を受ける血液がんの患者さんのように、その治療を受ければ生きられる可能性もあれば、高い関連死の割合、後遺症の割合を知ってそれでも受ける患者さんがいます。

天野参考人がいったことが胸に残りました。
「健康被害を受けた後のことを議論するより、有効で安全な治療を受けられるよう必要な制度設計をしていくことを期待したい」

副作用被害救済制度に関しては作ることを前提ではなく、また線引きをするのではなく、本当にそれが患者さんのために必要なことなのかを考えていただければと思っていますし、多くの国民にもこの議論に関して興味を持っていただきたいと思ってます。

第26回がん対策推進協議会

(レポート:片木美穂)

10月20日、全国都市会館において第26回がん対策推進協議会が開催され、J-CANから天野、眞島、松本が委員として出席しました。また、片木と桜井が傍聴をしました。


現在、がん対策推進協議会は、「次期がん対策推進基本計画」を睨んでさまざまな事項について議論していますが、この日は、化学療法とドラッグ・ラグの最終とりまとめでした。
委員からはさまざまな意見が書面により出されましたが、患者委員4名(天野、花井、眞島、松本)の連名で要望をした「ドラッグ・ラグを次期がん対策推進基本計画のなかでは、化学療法の推進の中で謳うのではなく、重点項目として取り組む」ということが改めて強く意見として出されました。

また、在宅医療やチーム医療に関する重点議論が行われ、患者委員からは実際の患者さんの声も踏まえて多くの提案がされました。
特に、松本からは愛媛県での実際に医療資源が少ない中で、患者さんのサポートをどうしていくのかという実例が紹介され、多くの委員が真剣に耳を傾けていました。

そして、がん登録に関するヒアリングが行われ、次回に集中的議論にむけて意見出しが行われました。
患者の立場からも多くの意見が出され、またこの日の参考人に関しても色々な質問が出されました。

今回の協議会では冒頭に外山健康局長から次年度に「がん・健康対策課」の設置の方向の話が出されました。
現在健康局にある2つの室を1つにする方向らしいですが、これに関しては、1つになることで職員が減り本末転倒にならないよう、課になることで増員や増強が行われよりよい対策になるよう患者会も見守り、声を出していかねばならないと思っています。

次回は11月2日。ヒアリングは「経済負担、就労支援、サバイバーシップ」です。
J-CANからは桜井が参考人で呼ばれております。

厚労省、「がん・健康対策課」の新設検討 (CBニュース)

第7回医薬品等制度改正検討部会

(レポート:片木美穂)

10月19日水曜日18時~20時まで厚生労働省で開催された医薬品等制度改正検討部会に片木が委員として出席させていただきました。J-CANからは天野と桜井と眞島が随行者として同席しました。

この日、事務局から、今後の薬事法改正の主たる改正のポイント案が提示されました。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001s5dh-att/2r9852000001s5i0.pdf

がん対策推進協議会でも要望が出ているコンパッショネートユースに関しては、治験に入った医薬品を、治験に入る基準に該当しない(すでに他に代替となる治療が無い)患者さんに対してという縮小的な提案であり、名称も「アクセス制度」となっていました。

コンパッショネートユースは欧米各国でも基準がばらばらであり、日本は日本の薬事行政を睨んでオリジナルの制度が必要だという風に感じています。
日本製薬協の長野委員からも「別途詳細を決める検討会が必要では」という意見もありました。
ただし、方向性としては、このタイミングで薬事法として示さねばならないと思うので方向性として上がってきて良かったと思っています。

しかし実際にコンパッショネートユースなどに関しては細かいところまで議論することはできませんでした。

この日も、第5回に引き続き数日前に薬害被害者のみなさまと面談したという小宮山厚生労働大臣がご挨拶に見えられました。
「薬害肝炎検討会の最終提言を真摯に受け止め、二度と薬害が起きないように、できることころから実施していく。先週、薬害肝炎原告団と話した際には、最終提言に関して強い思いを感じて受け止めた。またドラック・ラグ、デバイス・ラグなどについても審査体制の充実などを進めていく。検討部会の提言を最大限に踏まえ、来年の通常国会への法案提出を目指していく」というご挨拶をうけ、身が引き締まる思いがしましたが、議論の論点は、第5回、第6回に引き続き「添付文書の承認事項化」と「医薬品行政を監視する第三者機関」のお話し…。

薬害を起こしたのが「薬」であれば、患者さんの命をつなぐのも「薬」。
日本は世界でも数少ない創薬国であり、日本発の医薬品を生み出すには、「患者の安全を守る」議論と並行して「患者がどこまで副作用を受け入れるのか」といったところも考えなければなりません。もちろん「薬害」はあってはなりませんが、100%安全というお薬はありません。

薬事法は、この改正を機に話し合わなければならない課題はたくさんあります。
医療機器が医薬品と同じ基準でいいのか、再生医療やゲノム創薬など今後の医薬品開発の承認審査はどうするのか、医師主導治験やベンチャー企業の治験が進むために審査料などについてどうするのか、市販後全例調査の徹底や、予期せぬ副作用が発生した時に患者さんや医療者に周知するスキームはこれでいいのか、オーファンドラッグやウルトラオーファンドラッグの基準はどうするのか、行政刷新で廃止が決まった基盤研の機能が厚生労働省に戻って本当に医薬品行政が立ちいかないという事態にならないのか…
正直、残された会議の回数を考えると、それらに関して委員間で議論がなされていないことに身を切られる思いでいます。

最近はこの件で、がん患者会だけではなく、難病の患者会の方からもお電話やメールでご要望をいただくこともあります。
何とか議論の取りまとめができ、いい改正になったと言っていただけるよう、頑張りたいと思います。

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