愛媛県緊急被ばく医療アドバイザー(放射線医)山本尚幸先生から、現時点(3月18日午前10時)での注意点についてご意見をいただきました。
①抗がん剤などで血球減少症の患者さんへの今回の事故の影響について
原発事故自体がきわめて稀なケースのため、具体的に血球減少症の方の放射線被ばくに絞ると
十分な知見はないのですが、一般的に放射線化学療法(放射線治療+化学療法)を受けた患者などの場合、
高度な血球減少症が生じる可能性があることは知られていますので、両者は相加的に影響すると考えられます。
しかし、現時点で一般住民の方の被ばく線量は骨髄機能に影響を与えるレベルではありませんので、過剰な心配は
不要です。
②放射線の医学利用と、被ばくについて
胸部X線検査1回が約0.3mSv、
肺転移の診断などに用いる胸部CT1回の骨髄の被ばく線量がが5~10mSv、
癌の骨転移の診断などに使われる骨シンチグラフィーによる骨髄の被ばく線量等が1回7~10mSv
などがあげられていると思います。
医学において利用される放射線も、今回の事故に関連した放射線も基本的には同じです。
少し詳しく言うと、放射線にはX線、α線、β線、γ線、中性子線、粒子線などいろいろなものがあり、それぞれに
同じ放射能を持っていても、人体影響の程度は異なります。そのあたりを考慮して放射線の種類による違いを
調整して人体への影響を示す単位がSv(シーベルト)です。
ただし、2点大きな違いがあります。
第1は、医学利用による放射線の多くは体の一部のみの被ばくです。これは、同じ量の全身被ばくとは影響が全く異なります。
例えば、放射線治療の場合、典型的には2Gy(概ね2Sv)を一日に照射し数日に分けて合計40~70Gyがんの局所に照射します。
もし全身に1回2Gyなどの被ばくが生じると、全身的な急性放射線障害の症状が出ますが、もちろん放射線治療でそのような症状は
ありません。今回のように大気中に放出された放射性同位元素による被ばくは、一応全身の被ばくと考えますので、単純な比較は
成立しません。
第2に、医学利用では、診断や治療の目的に限られた部分に、目的とする効果を挙げるための最少量の放射線を照射することを
目標として、放射線科医や診療放射線技師、放射線物理士等は日々努力をしています。また患者にとってはそういった検査・治療に
よって、早期診断が可能になったり治療ができるというメリットがあります。したがって、これも事故による被ばくとは異なる点といえます。
まとめると、日頃専門家以外は放射線の量に対するイメ-ジがありません。そこで少しでも身近なものに例える目的で、医療被ばくに
例えて説明する場合があります。どちらも量においては変わりはありませんが、今回の事故をきっかけに放射線に対する過度な恐怖心を
持って、医療において必要かつ最小限の放射線被ばくを恐れる必要はありません。
また、一方で現時点において、原発周辺の住民のかたに人体影響の生じるほどの放射線被ばくが生じているような状況ではありません。
被ばくが住民の方にとってメリットがありませんので、わずかな被ばくも避けるために慎重に汚染の防止や除去(避難、屋内待機、
脱衣等)、汚染の有無の確認などを行っているという状態です。